自由と正義5月号は矢田政弘弁護士(愛知)の懲戒処分の公告を以下のとおり掲載した。
1 処分を受けた弁護士 矢田政弘 登録番号 16922
事務所 愛知県一宮市神山3-3-9 サンライズ法律事務所
2 処分の内容 戒告
3 処分の理由の要旨
(1)被懲戒者は、2001年11月14日、懲戒請求者との間で懲戒請求者が所有する土地の共有分の持分を所得することを目的として委任契約を締結し、同月15日に着手金及び予納実費合計62万5000円を受領したところ、2002年3月28日に上記共有者に文書を送付した後、約14年6か月にわたり事務処理を放置してその報告もしなかった。
(2)被懲戒者は、2014年以降、懲戒請求者から上記(1)の委任契約の事務の状況について再三問合せを受けたのに誠実に対応せず、2016年10月5日に上記の委任契約が終了する際に、事件処理の状況に関する事実関係について不正確な説明を行った。
(3)被懲戒者は、懲戒請求者との間の上記(1)の委任契約が2016年10月5日に終了した事から、受領済みの着手金等を清算の上、速やかに返還すべき義務があったにもかかわらず、2017年4月29日までこれをしなかった。
(4)被懲戒者の上記(1)の行為は、弁護士職務基本規程第35条及び第36条に上記(2)の行為は同規程第36条及び44条に、上記(3)の行為は同規程第45条に違反し、いずれも弁護士法第56条第1項に定める弁護士としての品位を失うべき非行に該当する。
4 処分が効力を生じた日 2019年1月16日
2019年5月1日 日本弁護士連合会
引用以上
愛知県弁護士会は、矢田弁護士の約14年間にわたる職務放置を「戒告」で済ませたのである。この件も2016年の「委任契約の終了」という事実がなければ、「除斥期間」を経過したとして、「懲戒せず」との結論が下されていたであろうと筆者は推測する。
この懲戒処分の要旨から伺えることは、おそらく懲戒請求者は矢田弁護士に共有物分割の協議の交渉を依頼し、その結果が不調であれば共有物分割訴訟の提起を委任したと思われる。そもそも2001年11月15日に着手金をもらっておきながら、文書の発送が翌年の3月28日である事からも、ここまでの経緯でも職務懈怠ではないかと筆者は考える。
それにしても14年以上も業務を放置する矢田弁護士の度胸には感服するしかないが、懲戒請求者にどのような不正確な説明をしたのかが気になるところである。
共有物の分割であれば、淡々と法的措置を執る事もできたと思うのであるが、何故に矢田弁護士が長期間事件を放置したのか気になるところである。
愛知県弁護士会は、①14年間以上の事件放置②委任契約の終了に伴う清算義務③依頼者への不正確な説明を認定していながら「戒告」という、矢田弁護士の実務には何らの影響もない処分にとどめたのである。まさに「弁護士の弁護士による弁護士のための弁護士自治」である。
一般社会で金を受け取っていながら14年間も仕事を放置していたら「戒告」処分などでは済まないはずである。愛知県弁護士会の下した懲戒処分は社会常識から大きく乖離しており、到底弁護士自治の信託者である国民の納得できるところではない事は間違いないだろう。