利益誘導で自白の疑い 東京高裁が審理差し戻し。法的には当然だろうが、犯罪抑止のためには暴力団や組織犯罪に対する法改正を

24日付で毎日新聞は「<詐欺事件>「利益誘導で自白」1審破棄、審理差し戻し」として以下の記事を配信した。

偽造クレジットカードを使って商品をだまし取ったとして、不正作出支払用カード電磁的記録供用や詐欺などの罪に問われた無職、鈴木辰巳被告(51)の控訴審判決で、東京高裁は24日、懲役5年とした東京地裁判決を破棄し、審理を地裁に差し戻した。青柳勤裁判長は「警察官から利益誘導され自白した疑いを払拭(ふっしょく)できず、取り調べた警察官の証人尋問を実施する必要があった」と述べた。

  鈴木被告は1審公判の途中まで起訴内容を認めていたが、結審後に求刑の重さなどから「偽造カードとは知らなかった。捜査段階で警察官に取引を持ち掛けられ、虚偽の供述をした」と否認に転じた。弁護側は、保釈後の鈴木被告と警察官との通話の録音内容から、捜査段階で▽余罪を立件しない▽他の人は逮捕しない▽早く保釈されるよう検察官に掛け合う--などの取引があったと主張した。

  高裁判決は、この録音内容から、弁護側の主張に沿った会話があったと認定。その上で 「警察官の証人尋問を実施するなど審理を尽くす必要がある。捜査過程に違法な利益誘導があったとすれば、量刑の見直しも検討対象になる」と述べた。

  弁護人の湯沢昌己弁護士は「非公式な司法取引の存在を認めてくれた。司法取引が制度化されようとする中、捜査の在り方が問われる判決だ」と話した。

  1審判決は、鈴木被告が2013年7~9月、都内の量販店などで偽造カードを使用して商品13点をだまし取ったなどと認定した。

 

引用以上

 

この事件についてTBSは被告と警察官の会話の実態を以下のように報道した。

 

偽造クレジットカードを使用した罪に問われた暴力団組員の裁判で、東京高裁は「取調べで利益誘導され、うその自白をした疑いがある」として、一審判決を破棄しました。決め手となったのは、暴力団員が密かに録音した警察官との会話でした。

  「本件認める場合は小さくしますよっていう話だったわけじゃないですか」(鈴木辰巳被告〔去年6月9日〕)

  「俺の力不足でそこまで抑えられなかった っていうのがあるのは、しょうがないですね。申し訳ないです、それは」(取り調べ担当の警察官〔去年6月9日〕)

  「約束が違う」と詰め寄る暴力団員。対する警察官は「力不足だった」と謝りました。

  この音声を録音したのは、暴力団員の鈴木辰巳被告(51)。2年前、都内の量販店やタクシーなどで偽造クレジットカードを使用した詐欺などの罪に問われました。鈴木被告は逮捕された当初、容疑を否認しましたが、その後、自白に転じました。この経緯について、裁判で「警察官に利益誘導を受け、うその自白をした」と主張したのです。

  一審の東京地裁は鈴木被告の主張を認めず、懲役5年の実刑判決。ところが東京高裁は24日、この判決を破棄し、審理のやり直しを命じました。

  「被告は保釈後、警察官との会話を録音しているが、その内容に照らすと被告の主張は直ちに否定できない」(東京高裁)

  暴力団員と警察官にどのような取引があったのか。その会話の録音データを入手しました。

  「要はね、1人もパクらないって言った後にね、結局(知人が)パクられたりとか」(鈴木辰巳被告〔去年6月6日〕)

  「はいはい」(取調べ担当の警察官〔去年6月6日〕)

  鈴木被告の弁護人によりますと、警察官との間では罪を認める代わりに、「余罪は立件しない」「共犯者を立件しない」「速やかに保釈する」「量刑を軽くする」という4つの取引がありました。しかしこの約束は実現せず、保釈後、警察官に電話し問い詰めたということです。

  「保釈の時もそうですよ。間違いないっていうふうに言ってたって、はっきり聞いてるわけだから、 こっちは絶対通ると思っているわけですから」(鈴木辰巳被告〔去年6月6日〕)

  「でも、それは検事でしょ、検事ですよ、それは全部」(取り調べ担当の警察官〔去年6月6日〕)

  「信じてください、辰巳さん。俺は裏切ったつもりもないし、今後ね、刑が安くなる(軽くなる)よう、 俺ができることがあれば力になりますんで」(取り調べ担当の警察官〔去年6月9日〕)

  鈴木被告の弁護人は、やり直される裁判で警察官らの証人尋問を申請し、「司法取引まがいの取調べで虚偽の自白が作られている実態を明らかにしたい」としています。

 

ちなみに鈴木辰巳被告の弁護人である湯沢昌己弁護士は、暴力団や組織犯罪を行う詐欺グループから信頼の厚いヤメ検弁護士である。

確かにこの警察官が鈴木被告に申し述べた内容は感心しないが、問題は鈴木被告が偽造クレジットカードで商品を騙し取ったか否かという部分であろう。犯罪行為の事実が無いにも関わらず鈴木被告が嘘の供述を行ったとしても、鈴木被告が犯罪組織を守るために嘘の供述を行った事は上記のTBSの報道内容の中に「余罪は立件しない」「共犯者を立件しない」という内容が含まれている事からも明らかである。このような犯罪組織への捜査が及ぶことを避けるために鈴木被告が虚偽の供述を行ったか否かを湯沢弁護士は明らかにするべきであろう。それが弁護士法の理念である「社会秩序の維持」に沿った行動であると筆者は考える。刑事弁護人は、被疑者・被告人のために最善の弁護士活動を行う事が当然なのであるから、鈴木被告が犯罪組織への捜査を避けることを念頭に嘘の供述を行ったという主張であれば、鈴木被告が恐れる犯罪組織について告発もしくは鈴木被告が自らの意思でなく、犯罪組織の意を受けて犯罪を行ったという立証を行えば、鈴木被告の利益にもなる事であるはずなので、そのあたりの行動を期待したい。

そしてこの件で重要なのは鈴木被告に警察官と会話の録音の指示を行ったのが誰であろうかという問題である。犯罪組織が組織への捜査の追及を防ぐために鈴木被告に録音を指示したのであれば、犯罪組織の悪質さを際立たせる証拠ではないだろうか?

最近の覚せい剤事件などの違法薬物事犯の被疑者被告人は必ず尿検査などについての任意性を争うような供述や主張を行う事が多くなっている。筆者の考えでは、薬物事犯や特殊詐欺に関連する犯罪に手を染めるものは、まず99.9%更生不可能な人間たちである。このような犯罪に対しては様々な捜査手法を認め治安の維持を図る事を優先させるべきなのである。薬物事犯や特殊詐欺関係者の人権よりも、犯罪被害者や一般市民の人権を重視しなければならないのは当然だからである。

実際に、今回の事件で鈴木被告に同情する国民は多くないはずである。また、薬物事犯に対する量刑が軽い事に違和感を持つ国民は多い。基本的に、薬物事犯と特殊詐欺事案には極刑を申し渡すようにしなければ、我が国の治安は悪化するばかりだろう。